【インタビュー】第76回▶米原ラグビースクール(滋賀県)

滋賀県湖北でラグビーの種をまき、コツコツと花を育てる
滋賀県の湖北地域には長らくラグビーをする場所がありませんでした。そこに子どもたちがラグビーを楽しめる場所を作ったのが、創設者で代表の山鹿雅さん(46歳)です。そのとき山鹿さんは自身のお店で腕を振るう料理人だったそうです。2006年の立ち上げ時に滋賀県ラグビー協会に登録し、3人の子どもたちとラグビーを楽しみ、人数が増えたり減ったりしながらもやり続けた結果、今では46名が所属し、卒業生は全国高校大会に出場するまでになりました。毎週土曜、日曜の午前中、米原市番場多目的グラウンドの天然芝で練習をしています。子どもたちにラグビーを伝え続ける山鹿さんにお話を伺いました。


声を出した仲間にはパスしよう
試合に出られない選手の気持ちを知ろう


村上 山鹿さんのラグビーキャリアから教えていただけますか。
山鹿 小学校は野球、中学ではバスケットボールをしていました。大阪の枚方市立招提北(しょだいきた)中学校に通っていたのですが、同級生のラグビーの試合を見に行って、ラグビーに一目ぼれしました。それでバスケットボール部を引退してからラグビー部に入りました。大阪府立長尾高校でラグビー部に入り、経済的な理由で大学には行けず、社会人のクラブチームでプレーしました。

村上 滋賀県の米原市に住むようになったのは、いつからなのですか。
山鹿 私は料理人で、京都、静岡での修業を経て目標としていた30歳の誕生日に妻の故郷で和食の店を持ちました。その間もクラブでラグビーは続けていました。しかし、滋賀県の北部(湖北)はラグビー文化がまったくありませんでした。長男(航汰)がスポーツ少年団に入る年頃になった頃(2006年)、これからもラグビーに関わっていきたいと思って米原ラグビースクール(RS)を立ち上げました。

村上 最初は何人から始めたのですか。
山鹿 長男とその友達で3人でした。ボールは1個です。周りからは「続かないだろう」と言われました。でも、とにかくやり続けました。ラグビーをしている噂が徐々に広がって、やっと40人を超えるようになりました。指導者も最初は私1人でしたが、手伝いたいというお父さんが出てきて、いまは9名になっています。

村上 生徒は小学生だけですか。
山鹿 現在高校3年生の代は11人いて、単独チームができました。この学年は4年生から6年生まで滋賀県で何度もチャンピオンになり、負けることがありませでした。滋賀県の北部には中学でラグビーをする場がなく、なんとかしてあげたくて、中学のクラブを作ろうとしたのですが、その時は無理でした。彼らは私学の光泉中学、滋賀学園中学に進学してラグビーを続けて活躍してくれました。私も一念発起して転職し、2年前に中学生を対象にした「彦根ワイルドバンチ」というチームを立ち上げました。彦根のほうが都会のイメージがあるので(笑)。米原RSと同じグラウンドで練習し、中学生は小学生を教え、小学生が中学生に憧れるという流れを作っています。ワイルドバンチは平日も練習し、滋賀大学に協力していただき、月曜、金曜は大学生に勉強も教えてもらっています。

村上 米原RSは、どんな方針で指導されているのですか。
山鹿 低学年までは自由にラグビーを楽しんでもらっています。ただし、仲間にはパスしようねということだけは伝えています。たとえば、上手い子が2人いて、その間に入った子を飛ばすのだけはやめよう、声を出した子にパスをしよう、ということです。試合については、真剣に勝ちに行く大会もありますが、誰もが試合に出たいし、勝てばうれしいし、負けたら悔しいという経験をしてほしい。だから、僕はレギュラーを入れ替えることがあります。すると、いつも先発していた子は泣きます。でも、試合に出られない子の気持ちも知ってほしいのです。


大人が声を出さないサイレント・リーグ
小鳥のさえずりが聞こえ、コーチも学びの時間に

村上 今年(2021年)の5月に「サイレント・リーグ」という交流大会を開催していますよね。
山鹿 本当は京都からも1チーム参加予定でしたが、コロナ禍で来られなくなりました。滋賀県のアンツ、草津、米原という3スクールで開催しました。大人が試合に口を出さないだけではなく、会場に入ったら大人と子どもが完全に分かれます。フリーの時間、ウォーミングアップも子どもたちだけ。試合後や休憩時間も大人のところに行かない。これは良い発見がありました。

村上 どんな発見ですか。
山鹿 我々指導者が伝えていることを子どもたちが体現してくれたのです。印象的だったのはキックオフ前の整列です。たいがいのチームは指導者が「声出していけ!」、「ハンズアップ!」など声をかけるのですが、その日はそれもありません。一瞬、沈黙になりました。すると、子どもたちから「声出していくぞ!」、「集中しろ!」といった声が出始めたのです。試合中もコーチが言うような声を掛け合っている。子どもたちは分かっています。僕らが、一から十まで言う必要はない。指導者として考えさせられ、スキルが上がった気がしました。ただし、すべての大会がサイレントで良いとは思いません。そこはバランスが大事ですね。

村上 「サイレント・リーグ」は今後も継続されるのですか。
山鹿 9月はコロナで中止になりました。今後も継続していきます。僕も驚いたのですが、小鳥のさえずりがグラウンドに響き渡りました。選手の入場時には一人一人マイクで名前を呼び、トライした選手もアナウンスしました。選手であるということを自覚してもらうためです。サイレント・リーグに参加希望のチームがありますが、できればチーム数を増やすのではなく、各地で小さなサイレント・リーグが増えてほしいと思っています。

村上 練習には他の球技もやることがあるのですね。
山鹿 小学生の間はいろんな選択肢があっていいと思います。野球、サッカー、キックベース、体育館ではバスケットボール、体操、ときどき入れています。コロナ禍で学校の運動会が中止になったしまったので、親子でパン食い競争をしたり、ラグビーボールでゴルフをしてみたり、いろんなプログラムをやってみました。卒部式では、親子のガチンコの試合もします。お父さん、お母さんも嫌がりながら、最後はどろんこになって走っています。

村上 なぜ山鹿さんはラグビースクールの指導を続けるのですか。
山鹿 僕は子どもたちに夢を見させてもらっているんです。今の高校3年生の卒部式のときに、「君たちが高校3年生になったとき、君たちがチームを引っ張り、滋賀県の決勝で戦うだろう。それが俺は見たい」と言いました。その子たちは光泉中学、滋賀学園中学に行って合同チームで3年間戦いました。そして滋賀県で一番強かった瀬田北中学に挑み続けて、3年生で優勝しました。今年は高校3年生の予選決勝で光泉と滋賀学園が戦う可能性があります。光泉には僕の次男(楓太)もいます。両チームに教え子がいて複雑な心境ですが、僕のRS人生の一節がこれで終わるなと思います。

村上 一区切りですね。感動がモチベーションなのですね。
山鹿 タックルできなかった子ができるようになり、嬉しくて泣いて、お母さんも泣いて、それを見て僕も泣いてしまう。この歳になってそういうステージに連れて行ってもらって、感謝しかありません。卒業生が戻ってきて子どもたちに教える。お兄さんたちに教えてもらって楽しそうにしている子どもたちを見ると、やっててよかったと思う。そのすべてがモチベーションです。

村上 今後の目標を聞かせてください。
山鹿 小学生の人数を増やしたいですね。そして、ラグビーを好きになってほしいです。ラグビーが上手くなるのは、先の話でいいのです。まずは、仲間を助け、ミスした子に、「オッケー、ドンマイ
と言える人になってほしいです。「声出していこう!」という子がいるのに、シーンとするときがある。「仲間が声を出そうと言っているのに、なんで声を出さないの?」と問いかけます。「声を出せば上手くなるわけではない。でも、声を出さないと、ボールは回ってこないし、奇跡は起きないよ」と話しています。



ラグビーキッズ
ラグビースクールネットワークインフォメーション(ラグネット)
アンケート


1、ラグビースクールの名前
 米原ラグビースクール

2、シンボル・ユニフォーム・エンブレム等


3、代表者
 山鹿 雅

4、住所・連絡先・担当者等入校希望者や問合せ先
 滋賀県米原市宇賀野524 TEL:090-5620-2487

5、活動場所・練習場所
 滋賀県米原市番場多目的グランド

6、練習場所は天然芝、人工芝、土等
 天然芝

7、活動時間、スケジュール、年間スケジュール等
 毎週土曜日&日曜日・9時~12

8、入会費・会費・用具費用等、活動に必要なもの
 月1500円・保険・協会登録費

9、生徒人数・女子選手の構成比等・外国人対応等
 46人・現在外国人2

10、コーチ人数、指名、経歴等
 9

11、モットー・大事にしている事・理念
 やり切った者にしか見えない景色と感情を味わいに行こう!

12、特徴・全員試合出場など他のスクールとの違い
 勝利主義チームではありませんので基本全員出場を心がけています。

13、歴史・活動実績
 5年目

14、OB・輩出トップリーガー
 OBに光泉カトリック高校・滋賀学園高校・石見智翠館

15、指導方針・教育方針
 面白さの先に楽しさがある(楽しさとは嬉しいや悔しいなどを超えた先にある)上の学年に上がるにつれて、それらを感じてほしい。


16、合宿・場所・期間・参加年齢等
 伊吹山登山合宿

17、ラグビー以外の行事
 球技大会・親子ガチンコ試合・卒部式

18、他の習い事との掛け持ちが可能か・何人いるか
 掛け持ち可能・5

19、保護者の活動への参加・サポート
 大歓迎

20、どんなスクールを目指すか(将来像)
 OBが帰ってきてくれる、OBが子供達に尊敬や憧れるようなチームに。

21、生徒にどんな大人になって欲しいか(教育観)
 困っている人に声を掛けられる、思いやりの持てる子になってほしいです。

22、プレースタイル
 自分の足で前へ!

23、交流する他のラグビースクール
 滋賀県内や近隣府県

24、交流するラグビー団体(学校・協会・トップリーグ等)
 光泉カトリック高校・滋賀学園高校



保護者へのアンケート

1、このスクールを選んだ理由
 体験で参加した際、監督やコーチの熱心で子供目線な指導法や楽しそうにラグビーをする子ども達を見て、息子もここでラグビーを習わせたいと思ったからです。

2、このスクールの良い点
 日曜日には通常練習、土曜日には自主練習とラグビーに打ち込める環境が整っているところです。
また、保護者としては、お茶当番や会計等の役がないのもありがたいです。

3、スクールに改善して欲しい所
 地方のラグビースクールであるため生徒数が少なく、試合で人数がギリギリということも多々あります。
ラグビー体験や勧誘活動を行い、生徒数を増やす活動にも力を入れてもらいたいです。もちろん協力します。

4、お子さんの変化・スクールに入って変わりましたか
 スクールに入団してから、自分の意見をしっかりと言えるようになり、学年の垣根を超えてコミュニケーションがとれるようになりました。

5、お子さんがスクールに入って生活に変化がありましたか
 もちろん子供はラグビーに夢中ですが、私も妻もラグビーに溺愛しています。
今では、子供のラグビー観戦が趣味となり、毎週末の練習や試合が楽しみです。

6、スクールを卒業してもラグビーを続けさせますか・続けて欲しいですか
 息子がラグビーを続けるのであれば、応援したいと思います。

7、ご自身もラグビーをしていましたか
 身近にラグビーがなく、サッカー部でした。

8、ご自身もラグビーが好きになりましたか
 ラグビーが好きになりました。
 YouTubeで動画を見まくっているので、息子よりも詳しくなっています。

9、どんな大人になって欲しいですか
 ラグビーを通じて、品位・情熱・結束・規律・尊重を学び、コミュニケーション能力に長けた大人になって欲しいです。

10、スクールに入れてよかったですか
 米原ラグビースクールに入団し、監督やコーチのおかげで家族でラグビーを楽しめています。これからもよろしくお願いします。

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