第14回ヒーローズカップ特別インタビュー

大野均 HITOSHI ONO
第14回ヒーローズカップ大会実行委員長

 


「どんなときも下を向かず、前を向いて行こう」
 
 

日本代表キャップ98は日本歴代最多。東芝ブレイブルーパスでは、2001年から2020年まで19年間にわたって強靭な肉体で献身的に動き回り、常にチームの中心にありました。2020年5月18日、ファンに惜しまれながら引退表明。現在は、ラグビー新リーグ「ジャパンラグビーリーグワン」に参戦する東芝ブレイブルーパス東京のアンバサダーを務めています。大野均さんは、現役時代からヒーローズカップに関心を持ち、ゲストとして試合会場に足を運んでくれました。14回目を迎える今年度のヒーローズカップでは、実行委員長を務めます。大会を引っ張る思いを伺いました。
(インタビュアー・村上晃一)
 
 

悲しくてもしっかり挨拶する
小学生の立ち居振る舞いに感動

 
 
村上:実行委員長就任を受けたお気持ちを聞かせてください。
大野:何度かヒーローズカップの決勝大会にゲストとして呼んでいただいて、そこで見た小学生ラグビー選手の表情とか立ち居振る舞いに感銘を受けていました。今回、NPO法人ヒーローズの林敏之会長とヒーローズカップの深尾敦コミッショナーにお話をいただきました。林敏之さん、松永敏宏さんといった日本代表の先輩方が歴任された大役を自分のような若輩者が受けていいのかと考えましたが、皆さんにサポートしていただけるということで、やらせていただくことにしました。
 
村上:お話にあった「子供たちの振る舞い」について、印象に残っているシーンはありますか。
大野:ヒーローズカップは小学生の日本一を決める大会です。そこには勝者と敗者が生まれます。印象に残っているシーンはたくさんありますが、ひとつあげるとすれば、負けて泣き崩れる選手もいるなかで、チームメイトが肩を貸して、コーチ、保護者の皆さんに挨拶するところまで気丈に振る舞い、それが終わった後に泣き崩れる姿です。小学生ながら、すごいと思いました。
 
村上:小学生の全国大会の価値についてはどのように感じていますか。
大野:小学生世代で、勝ち負けを決める大会については、いろんなご意見があるということは聞いています。自分自身は小学校のときは野球をして、大学からラグビーを始めたのですが、勝ち負けがつくからこそできる経験があり、感情があり、負けて悔しい、試合に出られなくて悔しいから努力する。そういう経験をしてきて成長できたところがあります。小学生のラグビー選手にとって大きな意味のある大会だと思っています。
 
村上:昨年はコロナ禍で大会開催が危ぶまれる中で、運営スタッフの奮闘もあって最後まで開催することができましたね。
大野:ゲストに呼んでいただいていた時代から、打ち上げの飲み会にも参加させていただき、スタッフの皆さんともお話しましたが、本当に熱心に取り組まれています。昨年はコロナ禍でオンラインのミーティングを6時間以上やったこともあったと伺いました。子供たちがラグビーをする環境を整えようとする熱い気持ちにも感銘を受けています。
 
村上:ご自身は大学からラグビーを始められましたが、小学生からラグビーをする子供たちをどんなふうに見ていますか。
大野:パスやランニングのスキルは僕よりも上手いですよね(笑)。タックルもすごいです。指導者の皆さんが怪我をしない基本をしっかり教え込んでいることが感じ取れます。それを見て自分自身も熱い気持ちにさせてもらっています。
 
村上:ヒーローズカップには、「ベンチ及び観客席からの指示は一切禁止」という取り組みをしていますね。
大野:とても良いルールだと思います。外的な要因で選手が委縮してしまうのは、もったいないことですから。
 

自分が痛いときは相手も痛い
ラグビーで思いやる気持ちを育んでほしい

 
 
村上:子供たちに、ラグビーというスポーツを、どのように楽しんでほしいですか。
大野:ラグビーはコンタクトが発生するスポーツなので、自分が痛いときは相手も痛い。その痛みを分かち合えるスポーツだと思います。相手を思いやる気持ちをラグビーで育んでもらえたら嬉しいですね。
 
村上:ラグビーでトップ選手になるために、子供の頃からやっておいたほうがいいことはありますか。
大野:タックルの部分でしっかり基礎を身に着けてほしいです。逆ヘッドでタックルして怪我をしないようにしてほしいですね。トップリーグで良い選手だと思っていた選手でも脳震とうで引退を余儀なくされる選手もいます。子供の頃から良い姿勢を学んでほしいですね。
 
村上:ラグビー以外のスポーツはしたほうがいいですか。
大野:いろんなスポーツを経験することで、ラグビーをよりよくプレーできることもあるし、その逆もあると思います。ラグビーを続けてほしいのですが、他のスポーツに触れる機会があれば、それも大事にしてほしいです。
 
村上:何を食べておけばいいですか。
大野:この質問をされるとよく話すのですが、「お母さんが作ってくれたご飯を残さず食べなさい」ということです。そうすれば体も丈夫になります。子供は食べて眠るのが一番大事です。日本代表で一緒になった体の大きな選手もみんなよく眠ります。
 
村上:大野さんは、小学生のころ何時間くらい眠っていましたか。
大野:毎晩9時には眠っていました。朝7時に起きていましたから、10時間ですね(笑)。それも体が大きくなった一つの要因でしょうね。
 
村上:大会の実行委員長としては、どんな役割があるのですか。
大野:実際の運営は実行委員の皆さんがやってくれるのですが、僕は先日も関東大会の代表者会議に参加しました。予選の代表者会議に顔を出し、実際に予選の会場に足を運んでいきたいと思っています。そこで子供たちや指導者の方々の熱を感じたいと思っています。そして、地方で会った子供たちが、全国大会でさらに成長するところを見ることができたら嬉しいですね。
 
村上:現在、東芝ブレイブルーパス東京ではアンバサダーを務めていますね。
大野:クラブの良さをいろんな場所で発信し、パートナー企業を募る活動などをしています。
 
村上:子供たちにラグビーを教えるアカデミーも立ち上げるのですか。
大野:小学生、中学生世代を対象に、今後、立ち上げる予定です。ブレイブルーパス府中ジュニアラグビークラブは週末の活動ですが、アカデミーは平日の夜にラグビーのスキルを高めたいような子供たちを対象にする予定です。
 
村上:今の日本のトップ選手はスクール出身が多くなりましたね。
大野:2015年、2019年のラグビーワールドカップでの日本代表の活躍によって、ラグビースクールの生徒数が増えていますし、今後もトップ選手にはラグビースクール出身者が増えていくと思います。オールブラックス(ニュージーランド代表)が強いひとつの要因も、子供の頃からラグビーをする良い環境が身近にあるからだと思います。そういう環境に日本もなってくれたら嬉しいです。
 
村上:コロナ禍で活動がストップしているチームがあります。やりたくても練習できない子供たちにメッセージをいただけますか。
大野:活動できないのは辛い状況だと思いますが、そのなかでも体のケア、スキルのレベルアップなど個人でやれることはたくさんあると思います。いつか活動が再開される日に向けて、下を向かず、前を向いて行ってほしいです。
 
村上:ヒーローズカップは、1カ月練習しないと出場できないというルールがあるので、それで出場できないチームもあります。
大野:試合に出られなくて涙を流す選手もいると聞きます。しかし、しっかりとした準備が必要だとするルールは、選手たちが怪我をしないように守るためのものです。今は悔しいと思いますが、5年生以下は来年の大会、中学生になる子は次の舞台でその悔しさを晴らしてほしいです。
 
 
PROFILE
おおの・ひとし◎1978年5月6日、福島県郡山市生まれ(43歳)
競技歴:日本大学工学部(大学1年~)→東芝ブレイブルーパス(2002-2020)
プロクラブ歴:サンウルブズ(2016-17)
日本代表:キャップ98(日本ラグビー歴代最多記録。ラグビーワールドカップ2007、2011、2015出場)
トップリーグのベストフィフティーンに9回選出(歴代個人最多選出回数)。2009年度にはトップリーグMVPに選出された。リーグ戦通算出場数は170試合(歴代2位)。
現役時代の身長:192㎝、体重:105㎏。ポジション:LO。2020年引退を表明。現在は、東芝ブレイブルーパス東京アンバサダーを務める。

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