【インタビュー】110回▶常総ジュニアラグビーフットボールクラブ(茨城県)

逆境でも音をあげず、仲間を信じ、前に向かって進む大人になってほしい
茨城県守谷市・前川製作所ラグビー場を本拠地として活動する常総ジュニアラグビーフットボールクラブは、1981年、前川製作所の社会貢献活動の一環としてスタートしたそうです。卒業生には、トヨタヴェルブリッツの福田健太選手がいます。また、2022年度の流通経済大学ラグビー部のキャプテンを務めた土居大吾選手が豊田自動織機シャトルズ愛知に入団。常総ジュニア卒業生初のプロ契約選手となりました。第15回ヒーローズカップにも出場した常総ジュニアについて、ヘッドコーチの米沢智秀さん(55歳)にお話を伺いました。米沢さんは僧侶で、茨城県つくばみらい市の高雲寺の住職でもあります。(2023年2月取材)


子どもたちの成長過程を見る楽しさが指導を続けるモチベーション

村上 米沢さんのラグビーキャリアから聞かせていただけますか。
米沢 私は中学、高校と茗溪学園で学びまして、ラグビー部で6年間プレーしました。徳増浩司さんが中学の監督でした。

村上 徳増先生といえば、ウェールズのカーディフ教育大学でコーチングを学んだ人ですね。帰国後、茗溪学園の英語教師となってラグビーも指導。ラグビー部を初の全国高校大会優勝に導き、その後は日本ラグビー協会の国際部長などを歴任されましたね。
米沢 中学1年生の時、徳増先生が担任でした。「君もラグビーをやらないか」と多くの生徒に声をかけていて、私は学級委員だったこともあって先生が言うならとラグビーを始めました。

村上 どんな練習でしたか。
米沢 子どもに分かりやすく、ラグビーの攻防の原則から教えてくださいました。スキルフルラグビーという海外の指導書をいただいたり、ウェールズ人のFWコーチを教員として招聘いただきました。ウェールズ代表の黄金時代の映像を何度も見せてくれて、ガレス・エドワーズ、バリー・ジョン、JPR・ウィリアムズなど伝説的選手の名前も覚えました。当時のトップレベルのラグビーを教わることができたと思います。

村上 当時から茗溪学園は展開ラグビーだったのですね。
米沢 中高共に、当時他校がしていたスクラムとキック中心のプレースタイルではなく、身体能力だけに頼らず、スペースを見つけて、そこにボールを動かす・走り込む。当時はまだ一般的ではなかったスクリューパスも多用し、サインプレーなども教えていただき、それが茗溪の展開ラグビーの基になりました。高校では柴田先生(現茨城県ラグビー協会理事長)に熱い指導を受け、私は最初に花園に出た代になります。

村上 その後、実家のお寺を継ぐために永平寺(福井県にある曹洞宗の大本山)で修行されたそうですが、その後、どのように常総ジュニアに出会ったのですか。
米沢 息子が3人いまして、常総ジュニアに長男を連れて行ったら初日から楽しそうにしていました。次男、三男も入りまして、6歳、4歳、2歳の兄弟がお世話になることになりました。2004年のことです。

村上 その頃の常総ジュニアはどれくらいの規模でしたか。
米沢 幼児から小学6年生まで30名くらいです。当初はコーチをする気がなかったのですが、結局、息子たちが卒業してもずっと関わっています。常総ジュニアの創設以来のポリシーは「コーチに卒業はない」ということです。とはいえ、それぞれに事情がありますので、皆さんが残るわけではありませんが。

村上 現在は約100名ということですが、部員が増えてきた要因はありますか。
米沢 ラグビーワールドカップのときも増えましたが、その前から、地道に普及活動はしていました。タグラグビーが学習指導要領に入ったとき、常総ジュニアの保護者の方々に各小学校に「指導に行きます」と伝えてもらいました。教えたくても、道具も指導者もいない小学校が多かったのです。私は会社務めではないので、ボランティアで地元の小学校はほぼ回り、常総ジュニアのチラシも持って行きました。2019年のラグビーワールドカップの前は約80名でしたが、開幕戦で日本代表がロシア代表に勝ったあとから、問いあわせのメールがたくさん来て、大会中に120名まで増えました。

村上 米沢さんがスクールの指導に長く関わっているモチベーションは何ですか。
米沢 子どもたちの成長の過程を見ることができるのが醍醐味ですね。やんちゃで挨拶もできなかった子が、立派に挨拶もできてしっかり話せる青年になっていく。年初めに卒業生が集合する日を設けて、タッチフットで子どもたちと遊んでもらいますが、逞しくなった姿を見るのは嬉しいものですよ。


コーチは子どもたちに本気で接する
だからこそ、耳の痛い話も聞いてくれる

村上 指導方針に「ラグビーを通した選手の人格形成」とありますが、そのあたりも気を配って指導されているのですね。
米沢 常総ジュニアはコーチの大きな声がよく聞こえます。プレーができなくて怒ることはありませんが、人が話をしているときに、ふざけて聞いていないようなときは指導します。説明をきちんと聞かない選手ほど、プレーも上手くいかないし、ミスをしますから。

村上 叱ることで子どもは変わりますか。
米沢 コーチは選手に本気で向き合います。練習でも手を抜かずに一緒に走ります。そういうコーチに言われたことは聞いてくれます。

村上 技術的な指導はどのようにしていますか。
米沢 私がコーチをし始めてからは茗溪仕込みのサインプレーなどを教えて、子どもたちも楽しそうにやっていました。新しいことを教えると、子どもたちが嬉しそうにします。もっと上手くなりたいという意欲が高まり、他のチームと違うことができているということが喜びに変わるということもあると思います。

村上 子どもたちが目指しているのは、ヒーローズカップですか。
米沢 茨城県内は12月に日立杯というチャンピオンシップがあります。これが年間の目標になっていまして、11月には千葉県スクール大会のNEC杯に、我々は近隣のチームと言うことで第1回大会から呼んでいただいています。この2つの大会は全学年の目標です。夏休みにはラグマガ杯があり、福田健太の時代に子どもたちの希望で出場しました。その後ヒーローズカップが始まり、こちらにも参加しています。

村上 ラグビーは子どもたちにどんな影響を与えると感じますか。
米沢 大人しい子が強くなっていく、やんちゃな子がしっかりとしていく。これはあると思います。そして、困難を克服する経験ができるスポーツだと思います。大きい人がまっすぐ走ってきたら、本能としては逃げますね。でも、それじゃダメだという責任感が出てくると、正しい技術をおぼえて前に出て倒せるようになる。怖がっていた子が前に出てタックルする瞬間というのは、困難を克服する達成感があると思います。ここに大きな成長がある。スポーツとして一番いいところだと思います。

村上 チャンピオンシップを否定する意見もありますね。ここはどう思いますか。
米沢 身体能力の高い子ばかり試合に出て、そうじゃない子はラグビーをやめてしまうという危惧があることを理解した上で、チャンピオンシップにも良さがあると思っています。小学生の段階では、育成・強化よりも普及の部分が一番大事だということを常に忘れることなく、しかし、もっと高いところを目指したい子のチャレンジ精神も大事にしたいのです。常総ジュニアではチャンピオンシップではない大会は機会均等で全員がプレーします。

村上 ラグビー以外の活動で盛り上がるイベントなどありますか。
米沢 いろいろありますが、私の家はお寺で、裏に竹藪があります。そこでタケノコ堀りをして、「あとは好きに遊んでいいよ」と言うと、自分たちで遊び方を考えて、竹藪から出て来なくなります(笑)。普段、グランドでは見せない一面が見えたりします。子ども達なりの居場所を見つけるのでしょうね。

村上 卒業後、ラグビーを続ける子は多いのですか。
米沢 8割は続けます。南茨城ラグビースクールという中学生のチームがありますが、ここは近隣の強豪チームの子たちが集まってくるので、出場機会に恵まれないこともあります。そのため、常総ジュニアだけの中学部をあらためて立ちあげ、ラグビーから離れる子が出ないように受け入れ態勢を整えています。

村上 今後の目標を聞かせてください。
米沢 100年後も存続するクラブが目標です。運営する人が変わっても存続するということは、それだけ地域に根差し、愛されているということです。卒業生が大人になって自分の子どもをつれてやってくる。すでにそういう親子も出てきていますが、そんな循環が続くチームになっていければと願っています。



ラグビースクールインタビューアンケート

1、ラグビースクールの名前
 常総ジュニアラグビーフットボールクラブ

2、シンボル・ユニフォーム
 エンブレム等:紺白段柄

3、代表者名
 米沢智秀

4、住所・連絡先・担当者等入校希望者や問合せ先
 300-2353茨城県つくばみらい市小張1684

 ヘッドコーチ米沢智秀 
 daido@fureai.or.jp  09030489724

5、活動場所・練習場所:守谷市立沢
 前川製作所ラグビー場

6、練習場所
 天然芝

7、活動時間、スケジュール、年間スケジュール等
 基本的に週に一度。土曜9~12時。日曜の場合は13~16時
  4月:チームビルディング(6年生:自然体験活動:竹切り・筍掘り等)
  5月:総会。 茗溪カップ参加・運営協力@茗溪学園
  6月:水戸交流大会参加(県協会主催)
  7月:菅平合宿(3日間)
  10月:水戸交流大会参加(県協会主催)
  11月3日:三郷交流大会参加
  11月:NEC杯参加
  12月:日立杯参加。 栄町商工会長杯(千葉県)
  1月:水戸交流大会参加(水戸市協会主催)
  3月最終週末:常総祭主催。 6年生を送る会
  その他、月に1・2回練習試合


8、入会費・会費・用具費用等、活動に必要なもの
 入会金ナシ。年会費12000円。試合ジャージ5千円。
 ヘッドキャップ・短パン・ストッキング等は各自購入。

9、生徒人数・女子選手の構成比等・外国人対応等
 約100人。女子選手:各学年1・2名。

10、コーチ人数、指名、経歴等
 コーチ40名。A級コーチ&C級コーチエデュケーター:米沢智秀
 元トップリーガー土肥健人(NTTコム)

11、モットー・大事にしている事・理念
 ラグビーを通した選手の人格形成。青少年健全育成。生活指導。

12、特徴・全員試合出場など他のスクールとの違い
 聞く態度や仲間への暴言等に対し、熱血コーチの怒声が飛ぶ事もあり、生活指導も重要視している。
 選手は一過性だが、コーチに卒業はない。子供が小学校を卒業しても残るコーチが多く、
 「本物のコーチ」と呼ばれている。

13、歴史・活動実績
 1981年創部。今年42年目。

14、OB・輩出トップリーガー
 小浜和己(流経柏→流経大→リコー:現スカウト)
 飯山竜太(久我山→帝京大→NEC)
 福田健太(茗溪→明治→トヨタ)
 土居大吾(流経大主将→4月よりトヨタ自動織機)


15、指導方針・教育方針
 ラグビーを通した選手の人格形成。青少年健全育成。生活指導。
 勝利を目指しつつも、勝利至上主義にならずに、選手の成長を最大限支援する。

16、合宿・場所・期間・参加年齢等
 合宿:菅平で7月3連休に3日間。全学年

17、校歌等
 ナシ

18、ラグビー以外の行事
 4月:自然体験活動 (竹切り・筍掘り)
 12月:自然体験活動(竹切り・ゆずもぎ)
 8月:流しそうめん  【コロナ前】
 正月:餅つき・おでん会【コロナ前】
 3月:6年生親子筑波山登山。 6年生親子ラグビー

19、他の習い事との掛け持ちが可能か・何人いるか
 掛け持ち可能。スイミングはかなりいる。サッカー、ミニバスも少数います

20、保護者の活動への参加・サポート
 特にはないが、6年生保護者にだけは、菅平合宿と餅つきへのサポートを依頼

21、クラブハウス
 ありません

22、どんなスクールを目指すか(将来像)
 100年後も存続する、地域に根ざしたクラブ。
 小学生選手が成長し、結婚後に子供を連れてコーチになる(実際に2名のコーチがいます)


23、生徒にどんな大人になって欲しいか(教育観)
 逆境でも音を上げずに、仲間を信じ、前に向かって進む大人


24、プレースタイル
 選手の個性を最重要視し、毎年また各学年によって違います
 以前は体格だけに頼らない、展開ラグビーを目指していた時期もあったが
 現在はコンタクト・ブレイクダウンを重視したり、ディフェンスを重視する年もあります

25、交流する他のラグビースクール
 日立、ひたちなか、水戸、石岡、土浦、ドラゴンズ、鹿嶋スタッグス、ツクバリアンズ、
 あびこ、柏、松戸、市川、千葉市、印西、浦和、川口、三郷ふくじゅ草、宇都宮、
 練馬、杉並、葛飾、江東、小金井他(敬称略)

26、交流するラグビー団体(学校・協会・トップリーグ等)
 茗溪学園、茨城県協会、水戸市協会


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