【インタビュー】社会で活躍するラガーマン 大正製薬ホールディングス社長上原明様~その2~

村上 ラグビーとの出会いを教えていただけますか。

上原 私は成蹊学園で小、中、高校生活を送りました。中学、高校の体育の授業は、冬はマラソンかラグビーでした。高校になると、全校ラグビー大会もありました。その頃からラグビーが好きでした。同時に私は演劇も好きで、どちらを続けようかと思ったのだけど、大学ではラグビーの同好会に入りました。

村上 ラグビーをして良かったことはありますか。

上原 私のポジションはプロップです。スクラムを組み、タックルし、密集戦で押し込んでボールを出すのが仕事です。そのボールをバックスの選手が持って走ってトライするわけです。みんな、トライをした選手のところに行って喜ぶのですが、良いタックルをした選手、上手くボールを出した選手も「ナイス・タックル!」、「ナイス・ヒールアウト!」と、評価してくれた。地道な作業でも、チームのため、自分の役目を果たすことの大切さがよく分かりました。この経験が私にとって大きかったのです。

村上 そうした経験がご自身の人格形成に与えた影響も大きかったでしょうね。

上原 私は中学、高校の6年間、ずっと級長をやったし、生徒会の会長もやりました。人前で目立つことが多いほうでした。だからこそ、地道な仕事を見てもらえたのは得難い体験でした。それぞれが自分の守るべきポジションで、自分のプレーをする。それが評価される。ここが重要なのです。

村上 RWC日本大会では、ラグビー憲章にある5つのキーワード「品位、情熱、結束、規律、尊重」も伝わった気がします。

上原 そうですね。弊社には「紳商(紳士の商人:社会的倫理に則った行動)」という創業の精神が受け継がれています。「紳士の商売人たれ」ということです。紳士とは何か。紳士の定義というのは、法律を破らない、倫理にもとらない、ウソをつかない、ごまかさない、弱い者いじめしない。もう一つ加えるなら、三方よしです。相手によし、自分によし、全体(公共、社会)によし。そういうことを考え、行動するのが紳士だと思います。ラグビーもジェントルマンシップが受け継がれています。フェアです。勝てばなんでも良いということではない。勝つための工夫と努力の延長線上に勝利がある。一番尊いことは勝つための努力です。ラグビーも勝つために体を鍛え、相手を分析し、作戦を立て、フェアに戦う。工夫すること、フェアプレーの大切さを、ラグビーを通じて感じることができます。

村上 御社の創業の精神には「勝つことのみが善である」もあります。これも勝つための最大限の努力のことだと思いますが、この言葉を日本代表の強化委員長だった宿澤広朗さん(故人)が好きだったことが、ラグビーをサポートするきっかけになったようですね。

上原 宿澤さんのお父様の書棚に「商売は戦い、勝つことのみが善」という、我が社の創業者・上原正吉の著書があったそうです。宿澤さんは「勝つことのみが善」という言葉が気に入って、自身の信条にしてくださったのです。

村上 上原さんは宿澤さんとどのように出会われたのですか。

上原 私が大正製薬の社員としてロンドンに出張した時、メインバンクのひとつである住友銀行の方がロンドンをご案内しましょうとおっしゃって、当時、ロンドンで為替ディーラーをされていた宿澤さんにご案内していただいたことがあります。以降、定期的に会食するようになり、ある時、日本代表強化委員長になられた宿澤さんからご相談を受けたのです。「日本代表のスポンサーになってください」ということでした。私が「ラグビーチームを持っている会社がたくさんあるじゃないですか」と申し上げると、「日本代表のジャージーの胸にライバル会社の名が入っているのは抵抗があります。チームを持たずにラグビーに理解のある方の会社にスポンサーになってほしい」というのです。私もラグビー精神を広く知ってもらう機会だと思いましたので、お引き受けすることにしました。


つづく~

上原明様

《略歴》

昭和41年 慶応義塾大学経済学部卒業
昭和52年 大正製薬株式会社 入社
昭和57年 代表取締役社長 就任
平成24年 代表取締役会長 就任
平成25年 大正製薬ホールディングス株式会社代表取締役社長 就任
平成27年 大正製薬株式会社取締役会長 就任

成蹊学園 理事・評議員 慶応義塾 理事・評議員 城西大学 理事長

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