【インタビュー】 株式会社集英社 廣野眞一 代表取締役社長〜その3〜


ラグビーから学んだ敢闘精神、自己犠牲。
各人の能力を最大限に発揮できる職場環境を整えたい。


村上 早稲田大学ラグビー部で、どんな考え方や精神的なものを学びましたか。
廣野 ひとつは敢闘精神です。形勢不利でも最後の最後まで勝利を目指して戦う。ぜったいにあきらめないということ。もう一つは、自己犠牲の精神です。身を殺してもボールを生かす。この2つは大きかったです。仕事でもそういう気持ちをずっと持っていました。目標を持つことはすごく大切です。早稲田であれば勝つこと。明確ですよね。

村上 2020年に社長に就任されていますが、これは目標だったのですか。
廣野 いえいえ、目の前の仕事で精いっぱいでした。社長就任の話を聞いたときは、えらいことになったと思いましたね。TBSの社長になった佐々木卓さんが、私が4年生の時の1年生です。彼が社長になったときに「早稲田のラグビー部の監督になるより、TBSの社長のほうが、まだ気が楽だ」と、面白いことを言いました。これ、私も使わせてもらっています。早稲田の監督は一年で勝負して結果を出さないといけないんですから。

村上 社長になって心掛けていることはありますか。
廣野 スタッフ、社員が働きやすく、それぞれの能力を全部引き出させたいですね。能力を最大限発揮できる環境を作らなくてはいけないと思っています。

村上 過去に読んだ本で廣野さんの人生に影響を与えた本はありますか。
廣野 高校に入学したころ、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫・著)という本を読みました。内容は、学生運動で東大の入試が無くなり、目標を失った高校生を描いた青春小説です。主人公の言動に衝撃を受けました。自分と2年ほどしか違わない高校生の考え方、生活ぶりもレベルが違った。異次元だとその時の私は感じましたね。

村上 最近読まれた本で印象に残っているものはありますか。
廣野 いろんな本を読みますが、小説では『神よ憐れみたまえ』(小池真理子・著)、『塞王の楯』(今村省吾・著)は面白かったです。コロナ禍で大変なことが多いのですが、良かったことの一つは、本がたくさん読めたことです。来客、会議、会食がなくなりましたからね。

村上 2019年のラグビーワールドカップ日本大会は観戦されましたか。
廣野 5試合観戦しました。日本代表の試合はスコットランド代表戦、準々決勝の南アフリカ代表戦。プール戦の南アフリカ代表対ニュージーランド代表、アイルランド代表対スコットランド代表、準決勝のイングランド代表対ニュージーランド代表戦は現地で観戦しました。

村上 いい試合ばかり見ていますね(笑)。
廣野 そうなんです。私がプレーしていたころと、まったく違うラグビーですね。ルールも、選手の体つきも違います。私はセンターですが、現役時代は身長173㎝、体重70㎏ですよ。いま、大学生でもそんなサイズのセンターはいないでしょう。

村上 これからラグビーに関わることはありそうですか。
廣野 ないと思いますが、リーグワンも気になりますし、シックスネーションズや南半球のトップレベルのラグビーは面白いし、時間があればずっと見ていたいですよ。

村上 2026年に集英社は100周年を迎えられるそうですね。
廣野 去年から社員に100周年の記念事業企画を募集して、やっと決まったところです。いくつかあるので、一つひとつ100周年に向かって仕上げていくというのが大きな仕事になります。

村上 社是に「創意」「自信」「協調」とあります。
廣野 これはずっと変わりません。創意は、創造性を発揮して新しいものを作って行こう、挑戦していこうということです。それを、自信を持ってやる。そして、仕事は一人ではできないので、才能ある人や得意分野を持っている人と協調して、相手のことを思いやりながら仕事をしなさいということです。入社した頃に先輩から教わりました。仕事の基本だと思います。

村上 ラグビーにもつながる言葉ですね。早稲田大学のラグビー部も「創造と継承」という言葉があります。
廣野 僕自身は「創造」と「想像」ということを言っています。創意工夫も大切だし、人のことを想うことも大切だということです。相手のこと、読者のことを想う。自分以外の人がどう思うのか、この本を出したときにどんな反応をするのか、常に想像して仕事をしようということは言っています。

村上 ありがとうございました。最後にラグビーをするお子さんを持つ保護者の皆さんへメッセージをお願いします。
廣野 ラグビーというスポーツは怪我もあるし、心配事の多いスポーツですが、私自身がプレーして、日々の練習、試合でのやり遂げた感覚がすごく大きいスポーツだと感じました。チーム一丸となり、一つの目標に向かって、それぞれがベストを尽くすという達成感が喜びにつながるのだと思います。お子さんには、辛いこともあるかもしれませんが、その先に楽しいことがあるということを忘れずにやってほしいし、保護者の方々もそんなお子さんの姿を見て感じられることがあると思います。ぜひ、サポートをしてあげていただきたいと思います。

【プロフィール】廣野 眞一/ひろの・しんいち 株式会社集英社・代表取締役社長。1956年生まれ、65歳、大阪府出身。早稲田大学教育学部教育学科卒業。1979年入社。書籍宣伝課課長、広報室部長代理、広告部部長、宣伝部部長、コンテンツ事業部部長などを歴任。2013年8月役員待遇、2014年8月取締役、2016年8月常務取締役、2019年8月専務取締役就任。2020年8月より現職。


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