第14回ヒーローズカップ特別インタビュー

菊谷崇 TAKASHI KIKUTANI
第14回ヒーローズカップ大会実行副委員長

 
「コロナ禍で頑張る選手を、純粋に応援したい」
 
元日本代表キャプテンの菊谷崇さんが、今年度のヒーローズカップの実行副委員長を務めています。実行委員長の大野均さんとは日本代表でともにプレーしたチームメイトであり、トップリーグでも東芝ブレイブルーパスとトヨタ自動車ヴェルブリッツというライバルチームで体をぶつけあった仲間です。日本代表時代は、菊谷キャプテンを大野さんが支えましたが、今回は菊谷さんが支えます。また、菊谷さんは、Bring Up Athletic Societyの代表として、スポーツの枠を超えて子供たちに対して、対人間スキル・集団での問題解決能力を育てる活動をしています。ヒーローズカップで子供たちにどんなことを学んでほしいと思っているのでしょう。お話を聞いてみました。
(インタビュアー・村上晃一)
 

この大会にはラグビーの原点がある
勝つことよりも負ける経験が大事

 
村上:ヒーローズカップに関わっていこうと考えた理由など聞かせてください。
菊谷:昨年度はコロナ禍のなかで、医療従事者をサポートするラグビーエイド活動に参加させていただきました。そのなかで、ヒーローズカップの深尾敦コミッショナー、実行委員長の大野均さんとコミュニケーションをとることが多く、ともに活動することに意義を感じたのが一番大きなポイントです。ヒーローズカップについては、抽選会や予選大会を拝見しました。トップリーグの現役でプレーしているときは、小学生の大会を注目することはなかったのですが、実際に見てみると、涙があり、キャプテンの立派なスピーチがあり、ラグビーの原点だと感動しました。
 
村上:大野委員長のサポート役になるわけですね。
菊谷:大野委員長はトップとしてかじ取りをするなかで、委員長が行けない予選大会に行くなどのサポートはあると思います。
 
村上:今年はどんな大会になることを期待していますか。
菊谷:何か特別なことを期待するというよりも、いつも通りみんなが試合に臨む準備ができて、試合ができる環境があることが大事ですよね。そして、試合が終わればお互いを称えあってほしい。それがラグビーの魅力だし、コロナ禍でもできるかぎりいつも通りの大会ができればいいですね。
 
村上:ヒーローズカップで学んでほしいことはありますか。
菊谷:日本一を決める大会なので、負けを感じてほしいです。試合に出られない選手もいるかもしれませんが、そういうときこそチームを支えることができるかどうかが問われます。悔しさというのは、いつか主役になるための段階だと思います。次にどうありたいか、自分がどうあるべきかということを考えることにつながるでしょう。勝つ喜びよりも僕は負けを経験することが重要だと思っています。
 
村上:菊谷さんも負けて学んできたわけですね。
菊谷:僕は勝って喜ぶ経験をしていません。負けてばかりです。高校、大学、トップリーグで優勝はゼロ。日本代表でパシフィックネーションズカップでの優勝はありますが、同じときに、女子サッカーがワールドカップで優勝したので、まったく注目されませんでした(笑)。
 
村上:負けからどんなことを学びましたか。
菊谷:僕は負けに対して悲壮感は持ちません。常に試合を楽しむ準備をしていました。勝っても、負けても、試合に出ても、出られなくても、練習はありますよね。ラグビーをいかに楽しむかということが大事です。
 
 
楽しみなプレーがあるから練習する
子供のうちは好きなことだけやればいい

 
村上:菊谷さんはラグビーのどんなところを楽しんでいましたか。
菊谷:年齢によって変わりました。ボールを持って走り、相手を吹っ飛ばすことが楽しかった高校時代。ステップを切る喜びを感じた大学生の頃。30歳を過ぎてからはタックルが好きになりました。いつも楽しみなプレーがあり、そのプレーのレベルを上げたいから練習をする。楽しみだということが練習につながっていましたね。

村上:子供たちも、それぞれの楽しみを見つけてほしいということですね。
菊谷:そうです! ステップ、タックルでも自分の持ち味があるだろうし、試合に出られなくても、自分の好きなプレーを上手くなりたいから練習をする。苦手なことは練習しなくていいです。小学生でも腹筋を割りたいなら腹筋ばかりやればいい。体幹が強くなってタックルされても倒れなくなるかもしれませんよ。僕は若いとき、低いタックルができなかったけど、体のつくり方を変えてパワーがついて低いタックルができるようになりました。体の成長とともにできるようになることもありますからね。
 
村上:菊谷さんが代表を務めるBring Up Athletic Societyのラグビーアカデミーは、小中学生にラグビーの指導をされているのですね。
菊谷:教える立場になって、子供たちが楽しんで取り組むことが大事だと再認識しています。楽しんでやっているうちに、気づいたら上手くなっていたというのが目指す形です。僕らが教えているのは、ラグビーのスキルだけではなく、人と人の間のコミュニケーションスキルです。人に何かを伝えるには、言葉だけではなくいろんな方法がありますよね。

 村上:コロナ禍でヒーローズカップに出場できないチームがあります。メッセージをお願いできますか。
菊谷:残念では済まされない気持ちでしょう。しかし、そういうときにチームメイトとどんなアクションをするかが大事だと思います。中学生になってどう行動するか。後輩たちに自分たちの姿勢をどう見せるか。6年生は卒業まで時間があるので、5年生以下の選手たちに自分たちがヒーローズカップでプレーできなかった思いを伝える。言葉にしてあげることが重要だと思いますし、それをすることによって次のステップに行くことができるのです。5年生の子であれば、6年生になったときに、そういう思いをしっかり伝える。練習できる大切さを伝えて、大会に向かって行くようにしてほしいですね。

村上:出場する選手にもメッセージをいただけますか。
菊谷:頑張れ!(笑)。緊張するし、負けたらどうしようと思うかもしれない。俺は勝つんだと思っている子もいるでしょう。試合に出るのが嫌な子もいるかもしれない。でも、一言だけ伝えるなら、頑張れ! 今年出場する子たちは、コロナ禍で出場できないチームもあるなかで出場できるので、プレーできることが特別だと思ってプレーしてくれるでしょう。難しい状況で頑張る選手たちを応援したい気持ちでいっぱいです。

PROFILE
きくたに・たかし◎1980年2月24日、奈良県御所市生まれ(41歳)
競技歴:御所工業高校(現・御所実業高校)→大阪体育大学→トヨタ自動車ヴェルブリッツ(2002-2013)→キヤノンイーグルス(2014-2018)
プロクラブ歴:サラセンズ(イングランド、2014)
日本代表:キャップ68(日本代表キャプテンとしてラグビーワールドカップ2011出場)
7人制日本代表:2005年セブンズワールドカップ出場)
トップリーグ156試合出場。ベストフィフティーン(2009-10、2012-13)
現役時代の身長:187㎝、体重:100㎏。ポジション:LO/FL/NO8。2018年引退を表明。現在は、退団後は福井県の強化コーチとして活動する傍ら、Bring Up Athletic Societyのラグビーアカデミーでコーチを兼任。日本体育大学の修士課程を取得。

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