【インタビュー】日本ラグビー協会初の女性理事 稲澤裕子 様〜その3〜

「あたなの街から、世界最高を作ろう」
リーグワンは楽しく社会を変える挑戦


村上 新リーグ「ジャパンラグビーリーグワン」を運営する一般社団法人ジャパンラグビートップリーグでも理事に就任されましたね。
稲澤 リーグワンは、スポーツの価値、ラグビーの価値が広められる場だと思っています。今回ビジョンに掲げている「あなたの街から、世界最高をつくろう」は、私は実現できると思っています。スポーツの価値はまだ明確になっていません。たとえば、RWCの経済効果は数字で出てきますが、私はスポーツの価値はお金だけではないと思っています。スポーツ、特にラグビーは夢を持つことができるし、夢をかなえることができるものです。岩手県釜石市は東日本大震災で被災しましたが、RWCの開催会場に立候補しました。反対論もあるなかで、津波で流されてしまった小学校、中学校があった場所にラグビー場を作り、みんなの力でRWC開催を実現しました。洞口瑠依さんの素晴らしいスピーチもあり、釜石の子どもたちがその夢に参加しました。これは数字にできません。そこを広げていくのがリーグワンだと思います。私は、経営面のことは何もできませんが、ラグビーの価値をどう形にして、どう換算するのかというところでお役に立てないだろうかと考えています。

村上 たしかに、スポーツの価値を数値で見せるのは難しいですね。
 「する、見る、支える、これをスポーツの3類型と言いますが、スポーツを支えることで得られるものってたくさんありますよね。でも、スポーツをやっていた人達が社会を支えるということもできると思うんです。マンデラさんは「スポーツには世界を変える力がある」と言いました。その通りだと思う。政治は楽しくないけど、スポーツは楽しいじゃないですか。楽しくみんなが参加できて、楽しく社会を変えることができたら、こんなに素晴らしいことはない。リーグワンはその部分への挑戦だと思います。

村上 リーグワンは、競技性だけでなく、社会性、事業性も重視してチームを運営していくのですが、ラグビーの社会的価値についてはどう考えていますか。
 これからの日本社会はリーダーシップの形が変わっていきます。ピラミッド型の組織で経済成長を目指すのではなく、もっとフラットに低成長の中でみんなが幸せになっていくためにどうすればいいか、というところに目を向け始めている。そうなると一人一人がそれぞれの役割のリーダーにならなければいけない。フラットな社会構造に変わっていくときに、ラグビーのダイバーシティだとか、自分のポジションでベストを尽くすというのは、次の日本社会に必要なことだと思います。また、スポーツはすべての人にとって楽しいものだと思います。健康寿命を延ばすためにも、もっとスポーツが身近にあって、楽しめるものであってほしい。リーグワンのチームの中には高齢者向けの体操教室に参加し、小中学校でラグビー教室を開き、道徳の授業でお話をするなどさまざまな取り組みが始まっています。こうして社会を変えていくのは、「社会に貢献する人材の育成
をミッションの一つとするリーグワンの大きなチャレンジだと思っています。それがトータルで実現していけば、まさしく世界最高になりますね。

村上 子供たちのラグビー普及にもつなげていきたいですね。
 小学校の先生に、タグラグビーの良い面について聞くと、「みんなに必要な役割があってみんなが参加できる」というんですね。ラグビーは誰もが自己達成感、自己肯定感を得ることができるんです。それを可視化していくのも大事だと思います。また、リーグワンのチームは選手の育成にも力を入れます。今の日本ラグビーの課題として、中学生世代がボトルネックになっているということがあります。ここをクラブのような形で受け皿を作る動きもあります。今後、競技人口も増えるでしょうし、勝敗を争うのとは違う部分でもラグビーを楽しめるようになればいいと思います。

村上 最後にラグビーをする子供たちの保護者の皆さんへのメッセージをお願いできますか。
 ラグビーキッズのサイトでの「ラグビースクールネットワークインフォメーション」のインタビューを読んでいると、多くの保護者の皆さんがタグラグビーをしていますよね。子どもたちだけではなく、保護者の皆さんも楽しんでほしいです。特にこれからやっていただきたいと思うのはお母さんたちです。ママさんラグビーが広がると良いですね。

村上 すっかりラグビーにはまってしまった稲澤さんですが、息子さんを練馬ラグビースクールに連れていった2006年に戻れるのなら、何がなんでも息子さんにラグビーやらせるでしょうね。
 やらせます! 私もやりたいです!


〜完
【プロフィール】
稲澤裕子
早稲田大学政治経済学部卒業
読売新聞東京本社入社
現在昭和女子大学特命教授
日本ラグビー協会初の女性理事
2022年1月7日開幕のジャパンラグビーリーグワンの理事

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