【インタビュー】日本ラグビー協会初の女性理事 稲澤裕子 様〜その1〜

2013年に日本ラグビー協会理事に就任
初めて見た15人制ラグビーで感じたダイバーシティ


村上 このコーナーでは、ラグビーを経験したことによって、その後の人生を豊かにした方々にお話を聞いています。今回のお客様は昭和女子大学特命教授で、日本ラグビーフットボール協会初の女性理事で、ラグビー新リーグ「ジャパンラグビーリーグワン」を運営する一般社団法人ジャパンラグビートップリーグの理事を務める稲澤裕子(いなざわ・ゆうこ)さんです。まずは、現在のお仕事についてお伺いできますか。
稲澤 昭和女子大学の総合教育センターで、メディア論とキャリア科目を担当しています。広報担当参事という肩書もあり、広報の仕事もしています。昭和女子大学はキャリア支援に力を入れていまして、これは、就活だけではなく、一生を通じたキャリアをどう作るかという視点で行われています。私は2009年から担当しているのですが、「現代女性の社会参加というタイトルで、ロールモデルとなる女性たちに来ていただいて話を聞くなど、卒業後の人生をどう組み立てていくかを学生と一緒に考えています。

村上 10年以上、女性の社会参加について取り組まれているのですね。
稲澤 この10年、大きな変化がありました。2009年当時は、就職はするけれども結婚して子供が生まれたらいったん育児に専念するという考えの学生がほとんどでした。でも、今は全員が最後まで仕事をするという考えです。定年までひとつの会社で仕事をすると考える学生が多いのですが、起業を目指す学生もいるし、働き方に関する考え方は完全に変わりました。今の学生のお母さんたちは男女雇用機会均等法のあとの世代です。フルタイムでずっと働いているお母さんが増え、管理職者もいて、将来管理職になることがイメージできるんです。これから日本は変わっていくと感じています。

村上 2013年から日本ラグビー協会の理事に就任されています。女性で初の理事でした。
稲澤 2013年に女子柔道のパワハラ問題が発覚するなど、スポーツ競技団体に女性理事が誰もいないというのはいかがなものかということが問題になっていました。そういった状況のなかで、理事に女性がいなかった日本ラグビー協会が女性理事候補を探していました。その時、私は読売新聞の調査研究本部というところで主任研究員をしていました。ウーマノミクスが注目され始めた時期でもあり、女性活躍に関する記事を書いていました。上司から最初にお話をいただいたとき、「私、何も知りませんけどいいんですか」と言ったら、「素人の視点こそ大事なんだ」と言われて、お引き受けすることになりました。

村上 ラグビーのことは、本当にまったく知らなかったのですか。
稲澤 知りませんでしたね。ただ、私の世代はラグビー人気が高く、早明戦のチケットが取れない時代でした。今泉清、堀越正巳という選手がそろって学生日本一になった早稲田大学の試合を見ています。また、2003年からトップリーグが始まり、リーグ終了後にマイクロソフトカップが行われていましたよね。私は2006年にYOMIURI PCという雑誌の編集長になり、取材でマイクロソフト執行役員の眞柄泰利さん(現・サイバートラスト社長)に出会いました。眞柄さんは練馬ラグビースクールの指導員をされていたので、勧められて息子を練馬ラグビースクールに連れて行きました。結局入ってくれなかったのですが、眞柄さんとはラグビー協会の理事になって再会しました。日本協会のマーケティング委員会にいらっしゃった眞柄さんは、2015年のラグビーワールドカップ(イングランド大会)のボランティア組織を現地で調査し、サンウルブズのボランティア組織を作り、2019年のラグビーワールドカップのボランティア「チーム・ノーサイド」につなげてくださいました。これも素晴らしい楕円のご縁です。

村上 理事になってからは、たくさん試合をご覧になったようですね。
稲澤 理事になって最初に観戦した15人制ラグビーが、2013年6月15日、秩父宮ラグビー場で日本代表がウェールズ代表に勝利した試合でした。高校の友達にラグビーファンがいて、何人かの友達と一緒に観戦することになりました。バックスタンドのセンターから少し横で見ました。今も忘れられないのは、五郎丸選手がゴールキックを決めたときに、それを真後ろから見たボールの弾道です。

村上 理事だからといって良い席で見るのではないのですね。
稲澤 バックスタンドで仲間とキャーキャー言いながら見たほうが面白いじゃないですか(笑)。その後、日本代表戦を見るたびに勝つんですよ。テストマッチ10連勝もありました。ラグビーって最高だと思いましたね。と同時に、ラグビーにはチームの中にダイバーシティー(多様性)が内包されていると感じました。女性活躍を考えてきた身からすれば、初めて見た日本代表戦で、身長160㎝台の田中史朗選手から196㎝のトンプソン ルーク選手がいて、体重が70㎏台から120㎏台までの選手がひとつのチームで戦っている。誰にでも居場所がありますよね。これはダイバーシティそのものだと感じました。「ALL OUT!!というラグビー漫画に、「エースストライカーも4番バッターもいない」「ボールを持ってる奴が主役なんだ」というフレーズが出てきます。ラグビーを言い当てていると思いますね。


〜つづく
【プロフィール】
稲澤裕子
早稲田大学政治経済学部卒業
読売新聞東京本社入社
現在昭和女子大学特命教授
日本ラグビー協会初の女性理事
2022年1月7日開幕のジャパンラグビーリーグワンの理事

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