【インタビュー】第42回▶春日部ラグビースクール(埼玉県)

第42回▶よりより社会をつくり、よりよい人生を生きる

42回目のラグネットでご紹介するのは、埼玉県春日部市で活動する春日部ラグビースクールです。創設6年目の新しいスクールですが、すでに生徒数は100名と着実に成長を続けています。「安全に楽しく!」がモットー。ラグビー、タグラグビーを通じた人間教育を目指すラグビースクールを立ち上げたのは、帝京大学教育学部初等教育学科の成家篤史教授(44歳)でした。現在もチームの代表を務める成家さんは、教育学の専門家の視点でラグビースクールをどう運営しているのでしょう。


学ぼうというスイッチを入れるため

楽しいこと、興味のあることから入る


村上 ラグビーはいつから関わったのですか。

成家 3歳上の兄が國學院栃木高校でラグビーをしていまして、中学3年生のときに兄の夏合宿を見に行って高校からラグビーをしようと決めました。私も國學院栃木のラグビー部に入部し、ポジションはスクラムハーフでした。卒業後は無名の大学でしたがラグビーを続けて、小学校の教員になってからも週末はクラブチームでプレーしました。

村上 春日部ラグビースクールを立ち上げた経緯を教えてください。

成家 小学校の教員をしながら大学院で勉強しました。博士課程まで行きたいと思ったので、29歳あたりからラグビーをやめて研究に没頭しました。その後、帝京大学で講師をすることになるのですが、私のゼミにラグビー部の学生がいまして、応援に行くようになりました。私の息子が幼稚園の年長のとき、ゼミに松田力也(日本代表SO)がいました。彼が大学3年生のとき、秩父宮ラグビー場に息子を連れて応援に行きました。そうしたら、息子がラグビーをやってみたいと言い始めたんです。ところが、調べてみると春日部にはラグビースクールがありませんでした。だったら、息子の幼稚園の友達を集めて、ほそぼそとでも「ラグビーごっこ」ができないかなと思って、息子が小学1年生なるタイミングで始めました(2016年)。

村上 最初は何名くらいで始めたのですか。

成家 20名弱でした。それから1年で50、3年目で70名くらいになり、いったん110までいって、いまは100名くらいで落ち着いています。口コミで増えましたね。あとは、幼児と、女子に力を入れました。すでに何かを習っている小学生よりも、幼児のほうが習い事として入りやすいし、幼児が増えれば小学生も増えて行くのではないかという狙いです。女子はたまたまで、弟を見に来ているお姉さんが何人かいて、見ているだけならタグラグビーをやったらどうかと思ってチームを作りました。生徒100名のうち20%が女子ですが、ほとんどがタグラグビーをしています。

村上 教育方針に「成長主義」を掲げられていますね。

成家 指導者が一方的に押し付ける教え方はしていません。コートの外から大人が大きな声で指示すると、子どもは考えなくなります。自分たちで考えることができる子どもたちを育てようという方針で指導しています。もう一つ、成長を促すためには練習の機会は多いほうが良いので、週に3回、4回とラグビーができる環境を整えることに取り組んでいます。

村上 成家さんの専門の教育学は指導に生かされているのですか。

成家 もちろん、教育学に基づいて指導しています。たとえば、大人も含めて、人は楽しくないと学べません。まず学ぼうというスイッチを入れるために、楽しいこと、興味のあることから導入します。タッチフットや鬼ごっこなど、発達段階に合わせた楽しいことですね。来た子どもたちがまた来週も来たいと思わせるようにやりましょうというのが柱です。

村上 幼児クラスのことを、「ラグあそクラス」と呼んでいますね。

成家 今年から変えました。担当コーチから「ラグビースクールの幼児クラス」と言うと、危ないイメージで人が集まりにくいという声がありました。うちは、昨年から「ラグビーあそび(ラグあそ)」というイベントを始めました。一般の子を集めて、ラグビーボールを使ったあそびです。それもあって「幼児」とは書かずに、「ラグあそクラス」にしました。

村上 日本代表、パナソニックワイルドナイツでプレーされた三宅敬さんが昨年からアドバイザーに就任されていますね。

成家 以前、帝京大学のラグビー部のグラウンドでパナソニックの相馬朋和コーチにお会いして、トップレベルの指導をするためにどうすればいいか相談したら、三宅さんを紹介してくださったんです。三宅さんには小学生を指導してもらっていたのですが、今年はコロナ禍でまだ来ていただけていません。


ラグビーを通じて育った子どもたちが

大人になることが、社会貢献になる


村上 毎年、目標にしている大会はありますか。

成家 タグラグビーチームの子たちは、サントリーカップ。小学生たちはヒーローズカップです。ただ、そこまで執着していないです。毎週、毎週、楽しくやろうとしていますし、月一回近隣のスクールと交流会を実施していますので、それを励みにやっていますね。

村上 親子タグラグビーもあるそうですね。

成家 不定期でやっています。それぞれのカテゴリーで親チーム対子どもチーム、子ども同士でタグラグビーの大会を開きます。高学年との対決だと、大人も手を抜かずに必死でやっていますし、これは面白いですよ。

村上 成家さんの専門分野から見て、小学生がラグビー、タグラグビーをしていることでの興味深い発見などありましたか。

成家 いま論文を書こうとしている研究があるのですが、結論から言うと、タグラグビーをすると頭が良くなります。脳には「ワーキングメモリー」があります。簡単に言うと、目で見て判断する、音声で聞いて判断するという2種類があるのですが、タグラグビーをした後と、普通にジョギングした後に、知能テストのようなものを実施して比較すると、タグラグビーをした後は、目で見て判断する脳の部位が優位に活発になります。

村上 ラグビーをすることで、子どもたちがどう変化していくか何か感じることはありますか。

成家 脳のことは別にして、自分たちで準備をしたり、片づけをしたり、仲間を思いやる道徳性のようなものは培われますね。ラグビーというスポーツは助け合いです。攻めても、守っても、仲間をどうやって助けるかというところがある。仲間を大切にする心が養われるのは、子どもたちにラグビーをお勧めしたい一番大きな理由ですね。

村上 これから取り組まれることはありますか。

成家 中学生のラグビー普及に力を入れています。ようやく、週4日、中学生が練習できる環境が整いました。これからじわじわ中学生が増えて行くと思います。埼玉県に限りませんが、小学校でラグビーをしても、みんな中学でやめてしまうんです。それを阻止したいのです。中学の部活と天秤にかけられるくらいにしたいので、週4日、ラグビーができる環境を整えました。

村上 アンケートを拝見すると、「何度倒されてもまた立ち上がれる人間になってほしい」という言葉がありました。

成家 GRIT(グリット)が高い人間ほど、将来的には成功するし、生涯賃金も高いというエビデンスがあります。それを日本語に置き換えると、多少困難なことがあってもへこたれずに頑張れる人間だと言えると思います。ラグビーを通じて、上手くいかないときこそ、へこたれずに頑張ろうというところを大事にしています。

(※GRIT=Guts:度胸、Resilience:復元力、Initiative:主体性、Tenacity:執念という4つの言葉の頭文字。やり抜く力を意味する言葉)

村上 そこに気を付けて指導されているのですね。

成家 子どもたちによく言うのは、仲間の失敗を責めるな、ということです。そういうときこそ人間性の出てくるところだから、学び合い、ともに支え合ってやっていかなくてはいけないと話しています。

村上 改めて、チームミッションの「よりよい社会をつくり、よりよい人生を生きる」について聞かせてください。

成家 単にラグビーを普及することにとどまらず、ラグビーを通じて、社会貢献するチームなんだということを謳っています。無償で市のタグラグビー大会を主催し、ラグあそで市内の子供たちを呼んでラグビーで遊んでもらう。何よりもラグビーを通じて育った子どもたちが大人になったら、それが社会貢献です。これからも社会貢献ができる人材を育てていこうと思います。




ラグビーキッズ

ラグビーネットワークインフォメーション(ラグネット)

アンケート

1、ラグビースクールの名前

 春日部ラグビースクール

2、シンボル・ユニフォーム・エンブレム等

 エンブレムはザリガニと藤の花

3、代表者

 成家篤史(なりや あつし)

4、住所・連絡先・担当者等入校希望者や問合せ先

 問い合わせ先:成家篤史 メールのみ:nariya@main.teikyo-u.ac.jp

5、活動場所・練習場所

 余熱利用暫定広場、まきば園まきばコートなど

 練習場所は天然芝、人工芝、土等 天然芝と人工芝

6、活動時間、スケジュール、年間スケジュール等

 全体活動日は日曜日9時40分~11時45分頃

 希望者のみ火曜日18時半~20時、木曜日17時~19時、土曜日9時~12時

7、入会費・会費・用具費用等、活動に必要なもの

 年会費:12000円(幼児は9600円)、保険代:800円、急いでユニフォームなど揃える必要なし

8、生徒人数・女子選手の構成比等・外国人対応等

 生徒数100名、女子20%

9、コーチ人数、指名、経歴等

 15人。校長は成家篤史。大学教授、博士(教育学)、日本協会公認B級コーチ、C級レフリー、タグラグビーティーチャー。スポーツメンタルトレーナー資格取得予定。

10、モットー・大事にしている事・理念

 「安全に楽しく!」がモットー。ラグビー・タグラグビーを通じた人間教育を目指している。

 特徴・全員試合出場など他のスクールとの違い

  ①明確にチームのビジョンを決めており、ラグビー・タグラグビーを通じて「よりよい社会をつくり、よりよい人生を生きる」ことを子どもも大人も目指すことにしている。

  ②コンタクトプレーを好まない子どもたちのためにタグラグビーチームが併設してある。ラグビーを行っている子もタグラグビーの練習をしたり、タグラグビーの大会に出場したりしている。タグラグビーチームを創設した理由も全ての子どもを満足させるため。

  ③本格的に中学校でもラグビーを楽しみたい子どものために土曜、日曜、火曜、木曜に活動をし、週4日中学生がプレーできるようにしている。

11、歴史・活動実績

 創設6年目

12、OB・輩出トップリーガー

 なし

13、指導方針・教育方針

 成長主義。一人一人の子がラグビー・タグラグビーをもっと好きになり、「また来週も来たい!」と思ってもらえることを大切に指導を行っている。それに加えて、子ども同士、大人と子ども、大人同士の関係性が重要であると考え、チームビルディングに関する取り組みを常時実施している。

14、合宿・場所・期間・参加年齢等

 加須げんきプラザにて毎年6月に実施。2020年度は中止。2021年度はコロナ情勢を見極めながら9月実施を検討中。小学2年生~6年生が対象。

15、校歌等

 なし

16、ラグビー以外の行事

 合宿、タグラグビー大会開催、親子タグラグビーを実施

17、他の習い事との掛け持ちが可能か・何人いるか

 他の習い事との掛け持ち可能

18、保護者の活動への参加・サポート

 特になし

19、クラブハウスあれば

 なし

20、どんなスクールを目指すか(将来像)

 幼児から中学生までがラグビー・タグラグビーをエンジョイできるスクール

21、生徒にどんな大人になって欲しいか(教育観)

 自分で考えて行動できる人間、何度倒されてもまた立ち上がれる人間。

22、プレースタイル

 子どもが考えてプレーする




関連記事