ラグビーは「なぜ?」を考えるのに向いているスポーツ
村上 社会人ではラグビーは続けなかったのですか。
植村 入社したコニカにはラグビーの同好会があって、何度か参加しましたが、継続的にはやりませんでした。ラグビーを再開したのは、30歳でドイツに赴任して以降です。現地のクラブに入っている日本人がいて、その人に誘われて練習に参加するようになりました。その後、日本人のラグビーチームに参加しました。私が参加した時は6-7人位しか居なかったのですが、未経験者も積極的に誘い、ロンドンにも遠征し、名門のロンドン日本人ラグビー部とも試合しました。その時のメンバーとは30年経ちますが、今も親密な仲間です。
村上 ドイツではラグビーが盛んに行われているイメージがありませんね。
植村 フランクフルト、ハイデルベルグ、ハンブルグ、ミュンヘンなど大きな町にはクラブチームがありました。ドイツの全国リーグは、ブンデス・リーグ(英語ではナショナル・リーグ)と呼びます。ミュンヘンのチームでは選手登録もして試合に出ました。だから、私はブンデスリーガです(笑)。ラグビーであれ、サッカーであれ、全国リーグに所属している選手はブンデスリーガと呼ばれます。
村上 レベルはどんな感じですか。
植村 1999年のラグビーワールドカップのヨーロッパ予選で、ドイツとスペインが戦ってスペインが勝った試合を見に行きました。スペインよりも日本代表のほうが強いですから、ドイツはかなり下だと思います。
村上 ドイツでラグビーをして、どんなことを感じましたか。
植村 ラグビーは言葉が通じなくても楽しめて、仲良くなれると感じました。イギリス人も多く、宴会とかレセプションはドイツ人もがんばって英語で話していました。試合になるとドイツ語になるので、右とか左はドイツ語で言うようにしていました。「ハイ、ハイ、ハイ!」と日本語で言ってもパスはくれましたね。
村上 ラグビーをしていたことが、仕事に生きたことはありましたか。
植村 人脈が大きいのですが、コミュニケーションの大切さとか、多様性ですね。仕事でリーダーになると部署の適材適所を考えますが、常にラグビーの経験が頭の片隅にあります。キックオフミーティングなどでよく話すのですが、「ワン・フォー・オール、オールー・フォー・ワン」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)です。この言葉はラグビーでよく使いますが、会社組織でもこれができれば最強の組織になります。
村上 キックオフミーティングというのは、年度初めにやるものですか。
植村 そうです。いま、会社ではパーパス(PURPOSE)を大事にしていまして、我々はなんのために事業をやっているのかということです。単に営利目的だけではなく、我々の事業がいかにして社会に役立っているのか、そういうことを認識することで、メンバーのモチベーションも上がります。仕事の意義を理解することによって頑張ることができるのです。人間は、一次的、二次的、三次的な欲求があって、高次元では意義が満たされることで幸福感が高まります。そういうことは大事にしています。たとえば、去年のキックオフで話したのは、2015年のラグビーワールドカップの日本代表の南アフリカ代表戦勝利です。選手たちが喜んでいる写真を見せて、「世紀の番狂わせ」と言われるくらいの奇跡だが、全員が何をやるかが意思統一され、パーパスを本気で実現しようとしたチームは強いということを話しました。
村上 組織を語るときに、ラグビーというのは例にとりやすいのですね。
植村 ラグビーは自分がタックルされても、パスがつながれば嬉しいですよね。地面にあるボールに体ごと飛び込んで確保したとき、相手に蹴られてしまうこともありますが、ボールが確保できれば嬉しいですよね。仕事上で自己犠牲を強いることはできませんが、自己犠牲をいとわない人間が多い組織は強いと思います。
村上 長く仕事をされてきて、世代によって、そういった意識の変化は感じることはありますか。
植村 最近の若い人のほうが「なんのために」ということを意識していると思います。我々の時代は上意下達ということで、言われた通りにするのが当たり前でした。最近の若い人の方が、なんのためにやるのかを理解したいと思っているし、理解すればより力を発揮します。
村上 拠り所になる理念や、目標が必要だということですね。
植村 理念は大事ですが、スローガンで終わってしまうと日々の仕事では忘れ去られます。スローガンで終わらせない為に、パーパスを実現出来た時の姿を明確にするのと、日々の自分の仕事が如何にパーパス実現に貢献しているのかを理解する事が大事です。昨年はタウンホールミーティングを90回ほどやりました。10人くらいずつ車座になって、パーパスと自分の仕事の結びつきを理解するために話し合うのです。自分の仕事が直接的に関与していなくても、間接的にでも関与しているということを理解することで、日々の仕事の中でパーパスを自分事として意識する事が出来ます。タウンホールミーティングではみんなの意見を聞き、私も自分の想いを話します。連絡はメールなどを使って効率を重視しますが、お互いの想いを伝えるのは対面の場が大事ですね。
村上 ラグビーキッズは、子供たちのラグビー普及のためにさまざまな情報発信をしていますが、子供のうちにラグビーをすることについてはどう感じますか。
植村 すごく良いと思います。子供のころから、たとえば、まっすぐ走ることの重要性は「何故か」を考えることができれば、フィジカル、メンタルに加えてロジックの面で強くなります。「なぜ」ということを考えるのが、ラグビーは向いているスポーツだと思いますね。それだけ指導者も勉強しなくてはいけないし、子供のころからのラグビーの経験は、社会に出て役立つと思います。
村上 最後にラグビーキッズや、保護者の皆さんにメッセージをお願いします。
植村 私自身は高校時代にラグビーを始めました。そこでラグビーというスポーツの素晴らしさに気づきましたが、もっと早くこのスポーツを知って、子供のうちからできていれば良かったと思っています。ラグビーはフィジカルも強くなるし、メンタルも強くなります。仲間とのコミュニケーションでゲームが成り立つので、その能力も磨かれると思います。危険なスポーツだと思われるかもしれませんが、プレーしてみると、それほど危険でもありませんし、得ることの方が圧倒的に多いと思います。そのことを保護者の皆さんにも理解していただきたいですし、将来、社会人になったときにも役立つスポーツだと思いますので、子供たちも一生懸命プレーしてください。
おわり
村上 社会人ではラグビーは続けなかったのですか。
植村 入社したコニカにはラグビーの同好会があって、何度か参加しましたが、継続的にはやりませんでした。ラグビーを再開したのは、30歳でドイツに赴任して以降です。現地のクラブに入っている日本人がいて、その人に誘われて練習に参加するようになりました。その後、日本人のラグビーチームに参加しました。私が参加した時は6-7人位しか居なかったのですが、未経験者も積極的に誘い、ロンドンにも遠征し、名門のロンドン日本人ラグビー部とも試合しました。その時のメンバーとは30年経ちますが、今も親密な仲間です。
村上 ドイツではラグビーが盛んに行われているイメージがありませんね。
植村 フランクフルト、ハイデルベルグ、ハンブルグ、ミュンヘンなど大きな町にはクラブチームがありました。ドイツの全国リーグは、ブンデス・リーグ(英語ではナショナル・リーグ)と呼びます。ミュンヘンのチームでは選手登録もして試合に出ました。だから、私はブンデスリーガです(笑)。ラグビーであれ、サッカーであれ、全国リーグに所属している選手はブンデスリーガと呼ばれます。
村上 レベルはどんな感じですか。
植村 1999年のラグビーワールドカップのヨーロッパ予選で、ドイツとスペインが戦ってスペインが勝った試合を見に行きました。スペインよりも日本代表のほうが強いですから、ドイツはかなり下だと思います。
村上 ドイツでラグビーをして、どんなことを感じましたか。
植村 ラグビーは言葉が通じなくても楽しめて、仲良くなれると感じました。イギリス人も多く、宴会とかレセプションはドイツ人もがんばって英語で話していました。試合になるとドイツ語になるので、右とか左はドイツ語で言うようにしていました。「ハイ、ハイ、ハイ!」と日本語で言ってもパスはくれましたね。
村上 ラグビーをしていたことが、仕事に生きたことはありましたか。
植村 人脈が大きいのですが、コミュニケーションの大切さとか、多様性ですね。仕事でリーダーになると部署の適材適所を考えますが、常にラグビーの経験が頭の片隅にあります。キックオフミーティングなどでよく話すのですが、「ワン・フォー・オール、オールー・フォー・ワン」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)です。この言葉はラグビーでよく使いますが、会社組織でもこれができれば最強の組織になります。
村上 キックオフミーティングというのは、年度初めにやるものですか。
植村 そうです。いま、会社ではパーパス(PURPOSE)を大事にしていまして、我々はなんのために事業をやっているのかということです。単に営利目的だけではなく、我々の事業がいかにして社会に役立っているのか、そういうことを認識することで、メンバーのモチベーションも上がります。仕事の意義を理解することによって頑張ることができるのです。人間は、一次的、二次的、三次的な欲求があって、高次元では意義が満たされることで幸福感が高まります。そういうことは大事にしています。たとえば、去年のキックオフで話したのは、2015年のラグビーワールドカップの日本代表の南アフリカ代表戦勝利です。選手たちが喜んでいる写真を見せて、「世紀の番狂わせ」と言われるくらいの奇跡だが、全員が何をやるかが意思統一され、パーパスを本気で実現しようとしたチームは強いということを話しました。
村上 組織を語るときに、ラグビーというのは例にとりやすいのですね。
植村 ラグビーは自分がタックルされても、パスがつながれば嬉しいですよね。地面にあるボールに体ごと飛び込んで確保したとき、相手に蹴られてしまうこともありますが、ボールが確保できれば嬉しいですよね。仕事上で自己犠牲を強いることはできませんが、自己犠牲をいとわない人間が多い組織は強いと思います。
村上 長く仕事をされてきて、世代によって、そういった意識の変化は感じることはありますか。
植村 最近の若い人のほうが「なんのために」ということを意識していると思います。我々の時代は上意下達ということで、言われた通りにするのが当たり前でした。最近の若い人の方が、なんのためにやるのかを理解したいと思っているし、理解すればより力を発揮します。
村上 拠り所になる理念や、目標が必要だということですね。
植村 理念は大事ですが、スローガンで終わってしまうと日々の仕事では忘れ去られます。スローガンで終わらせない為に、パーパスを実現出来た時の姿を明確にするのと、日々の自分の仕事が如何にパーパス実現に貢献しているのかを理解する事が大事です。昨年はタウンホールミーティングを90回ほどやりました。10人くらいずつ車座になって、パーパスと自分の仕事の結びつきを理解するために話し合うのです。自分の仕事が直接的に関与していなくても、間接的にでも関与しているということを理解することで、日々の仕事の中でパーパスを自分事として意識する事が出来ます。タウンホールミーティングではみんなの意見を聞き、私も自分の想いを話します。連絡はメールなどを使って効率を重視しますが、お互いの想いを伝えるのは対面の場が大事ですね。
村上 ラグビーキッズは、子供たちのラグビー普及のためにさまざまな情報発信をしていますが、子供のうちにラグビーをすることについてはどう感じますか。
植村 すごく良いと思います。子供のころから、たとえば、まっすぐ走ることの重要性は「何故か」を考えることができれば、フィジカル、メンタルに加えてロジックの面で強くなります。「なぜ」ということを考えるのが、ラグビーは向いているスポーツだと思いますね。それだけ指導者も勉強しなくてはいけないし、子供のころからのラグビーの経験は、社会に出て役立つと思います。
村上 最後にラグビーキッズや、保護者の皆さんにメッセージをお願いします。
植村 私自身は高校時代にラグビーを始めました。そこでラグビーというスポーツの素晴らしさに気づきましたが、もっと早くこのスポーツを知って、子供のうちからできていれば良かったと思っています。ラグビーはフィジカルも強くなるし、メンタルも強くなります。仲間とのコミュニケーションでゲームが成り立つので、その能力も磨かれると思います。危険なスポーツだと思われるかもしれませんが、プレーしてみると、それほど危険でもありませんし、得ることの方が圧倒的に多いと思います。そのことを保護者の皆さんにも理解していただきたいですし、将来、社会人になったときにも役立つスポーツだと思いますので、子供たちも一生懸命プレーしてください。
おわり
植村利隆
コニカミノルタ上席執行役員(2025年3月現在)
プロフェッショナルプリント事業本部長
大阪府立市岡高校ラグビー部
同志社大学ラグビー同好会