【インタビュー】社会で活躍するラガーマン TBSテレビ代表取締役社長佐々木卓様〜その3〜

組織を意識しながら個性を発揮する

ラグビーのマインドが仕事に役立ちました。


村上 卒業後にラグビーを続ける選択肢はなかったのですか。

佐々木 よく考えた末、怪我が多かったこともあってラグビーを続けるのはやめました。ラグビー部のない企業に行こうと思って、TBSに入社しました。

村上 TBSでは、報道部が長かったようですね。

佐々木 そうです。途中で政治部にも行ったし、北京特派員は3年やりました。筑紫哲也のニュース23という番組で編集長を務めた時期もあります。編成部にも行きました。歳を重ねて現場を離れ、会社の管理部門に行くときには経理局に行きました。僕は50歳になるまで、ずっと現場にいましたから、そこから簿記の学校に通いました。夜7時から学校で2時間勉強するんです。いつも、おじさん達が教室の前にいる。なぜかと言えば、老眼だからです(笑)。

村上 経理局に異動になると、簿記の学校に行かなくてはいけないのですか。

佐々木 いえ、自主的に行きました。それまで数字を扱った仕事をしていなかったし、そうでもしないと仕事についていけないと思ったのです。失うものもないし、恥ずかしくもない。半年で簿記2級に合格できました。みんな信じないから、しばらく証書を持ち歩いていましたね(笑)。不合格になると恥ずかしいし、威厳がなくなるから、リスクはあったのですけれどね。実際にはベテランの経理マンがたくさんいますから、僕はマネージメントをすれば良かったのです。でも、勉強しなきゃいけないと思ったんですよ。経理局の皆さんも、最初は経理の素人が上司になったことに冷ややかだったと思います。勉強したことで、皆さんと居酒屋に行けるようになりました。

村上 それ以外にも、ラグビーの経験が役に立ったことはありますか。

佐々木 ラグビーは、一つの目的のために協調するということと、自分の個性を思い切り爆発させるということを同時にやらなくてはいけない。会社も同じです。会社という組織のために協調する。でも、個性が埋没してはいけない。その難しい加減を僕はラグビーをしていたおかげで、入社当初から持っていたと思います。もちろん、テレビ局なので、組織の中での役割を全うする人もいるし、天才的な記者やアナウンサー、ディレクターもいる。でも僕は組織を意識しながら個性を発揮するというマインドがあった。これはラグビーでは普通に行われていることです。

村上 スクラムハーフというポジションは関係ありますか。

佐々木 僕は高校の頃、スクラムハーフとして、自分が、がんがん突破を狙ったり、キックを蹴るタイプでした。ところが、大学に入るって周りのレベルが上がると突破できなくなる。自分の小ささを知り、スタンドオフの選手とペアを組んで味方を生かすことを面白いと感じるようになりました。

村上 ラグビーでは、スクラムハーフ(9番)と、スタンドオフ(10番)をハーフ団と呼んで、この2人がゲームをコントロールするのが普通ですね。

佐々木 当時の早稲田には本城和彦という天才スタンドオフがいました。僕が彼にパスするときは、一歩前に踏み出した50㎝前に投げるという掟がありました。どうしても、ミスを恐れて体に向かって投げてしまうのですが、50㎝前に投げたほうが、BKライン全体が前に出る。見事にパスができて、本城がディフェンスを突破すると気持ちがいいし、楽しかったです。これがラグビーの真髄だと思うのですが、自分がトライするよりも自分が役目を果たすことで誰かがトライをする、トライをさせるということは楽しかったです。

村上 今もラグビーには関わっているのですか。

佐々木 今は母校の応援くらいしかしていません。夢は、会社を辞めたらオーストラリアに行き、コーチの資格を取ることです。もう一度ラグビーの勉強がしたい。そして日本に帰ってきて高校生にラグビーを教えたい。昔の日本ラグビーには、身体の小さな日本人が器用な手先を使ってディテールにこだわった技があった。でも、それだけ言うと、それは昔のラグビーでしょう?と高校生に言われるでしょう。最新のラグビーを勉強して、そのついでに古いラグビーも教えたら説得力があるかなと思っていて、それが夢です。

村上 仕事での目標はありますか。

佐々木 今の責任を全うするのみです。日本のテレビは変化の時代にありますが、5年後、10年後に栄えるように準備しています。

 

 ~つづく


【プロフィール】

東京都出身。早稲田大学法学部卒。

1982年、東京放送(現 TBSテレビ)入社。

北京支局長、「筑紫哲也ニュース23」プロデューサー、編成局編成部長、

経理局長、グループ経営企画局長、編成局長などを経て、2015年TBSテレビ取締役。

2016年常務取締役、2017年専務取締役。2018年6月から

TBSテレビ代表取締役社長、東京放送ホールディングス代表取締役社長。一般社団法人日本民間放送連盟副会長。60歳

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