【インタビュー】社会で活躍するラガーマン TBSテレビ代表取締役社長佐々木卓様〜その1〜


ノーサイド・ゲームは、ラグビーの矛盾を描いていた。
リアリティもあり、感動しました。

村上 このコーナーでは、ラグビーを経験したことによって、その後の人生を豊かにした方々にお話を聞いています。今回のお客様は、株式会社東京放送ホールディングス(略称 TBSホールディングス)代表取締役社長・佐々木卓(ささき・たかし)さんです。2019年のラグビーワールドカップ(RWC)は大変盛り上がりましたが、佐々木さんも生観戦されたのですか。

佐々木 私は準々決勝、準決勝、決勝と3試合観戦しました。いずれも涙が出ました。日本代表対南アフリカ代表も感動的でしたが、決勝戦は知性と野生の激突みたいな、非常に高い水準の戦いでしたね。

村上 日本代表が決勝トーナメントに進出したのも素晴らしかったですね。

佐々木 昔は考えられなかったことです。その後、かつて日本代表の監督を務めた日比野弘さんと会食したのですが、日本代表対スコットランド戦は「自分の人生の中で日本代表史上最高の試合だった」とおっしゃっていました。タックルが素晴らしく、ミスがなく、現在の日本代表が得意とする相手と競り合うキックを一度も蹴らなかった。つまり、相手の度肝を抜くような戦いをしていたということです。

村上 なぜ、あそこまで日本の人々の心をつかんだと思いますか。

佐々木 これまでラグビーに関心のなかった女性や子供達までがラグビーって面白いと話していますよね。これまで関心のなかった人を惹きつける魅力がラグビーにあったということです。

村上 それは何なのでしょう。

佐々木 格闘技的な面がありながら、フェアが要求される。乱暴者だけれどジェントルマン。そんな矛盾に魅力があるのかもしれませんね。前進したいのに、前にパスしてはいけないとか、矛盾だらけです。大きな選手が有利そうに見えるけれど、小さな選手が強いタックルで倒すような意外性もある。人生になぞらえることもできて、知ってしまえば、こんなに面白いスポーツはないのかもしれません。

村上 RWC日本大会は、テレビの地上波ではNHKと、日本テレビが放送しました。TBSのドラマ「ノーサイド・ゲーム」が果たした役割も大きかったと思います。

佐々木 ジョークで、敵に大量に塩を送ったとか、特別背任だとかからかわれましたが、実際にはずいぶんと前から池井戸潤先生の本をドラマ化しようという話はありました。そして素晴らしい本が出来上がり、それを慶應義塾大学ラグビー部のOBでもある福澤克雄が監督した。彼は天才的な映像作家だと思います。現場の人たちが作りたかったのは、RWCの前にラグビーをよく知らない人に語り掛けるドラマでした。大会前にラグビーの良さを知ってもらいたい、特に子供たちに見せたいと言うのです。原作には松たか子さんが演じた「サッカーならいいけど、ラグビーはねぇ」なんて言うお母さんは出てこない。福澤監督があの役を作ったのは、これまで知らなかった人にラグビーを見てもらいたいと思ったからです。僕も感動しましたし、面白かった。ラグビーの試合にリアリティがありましたね。

村上 ラグビーのスピリットが詰まったドラマだったと思います。

佐々木 ONE TEAMとは言っていなかったけど、チームがまとまっていくところを見せていました。ラグビーは10個のポジションがあり、15人が組織で動く中で一人一人が個性を出していくスポーツです。その難しいところをドラマで描いていました。我を捨ててチームのために尽くしましょう、という描き方はしなかったし、一人一人が勝手に動いているわけでもない。通り一遍ではない描き方がとても良いと思いました。


~つづく


【プロフィール】

東京都出身。早稲田大学法学部卒。

1982年、東京放送(現 TBSテレビ)入社。

北京支局長、「筑紫哲也ニュース23」プロデューサー、編成局編成部長、

経理局長、グループ経営企画局長、編成局長などを経て、2015年TBSテレビ取締役。

2016年常務取締役、2017年専務取締役。2018年6月から

TBSテレビ代表取締役社長、東京放送ホールディングス代表取締役社長。一般社団法人日本民間放送連盟副会長。60歳

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